精神科 豆知識シリーズ ⑪ビタミンB1、B12、葉酸が減少するまで
精神科臨床ではビタミンB1、ビタミンB12、葉酸を測定する機会が多いでしょう。
認知機能低下症例ではほぼ前例測定するといっても過言ではありませんが、それぞれの貯蔵期間がどの程度かは知っておく必要があります。
半減期は10~20日程度。カップラーメンにも添加されています。
入院中の患者でハーフ食を出している患者が、その半分程度しか食べていないと、入院中にも関わらずビタミンB1が欠乏する可能性があります。
また、意識障害がある患者で低血糖を見かけた場合、ビタミンB1欠乏が合併している可能性があることに注意が必要しましょう。
ビタミン欠乏を疑った場合は、検査を提出後、採血結果を待たずに補充療法を開始しましょう。ウェルニッケ脳症であれば高用量補充しないといけない点には注意が必要です。
肝臓に貯蔵されているため、完全菜食主義者になっても3~5年は生理的必要量が維持できます。
胃粘膜の壁細胞の内因子が欠乏すると吸収不全できなくなること、回腸切除で吸収量が低下することに注意が必要です。
補充にあたっては吸収不全がなければ内服で、吸収不全があれば静注か筋注の必要があります。
大球性貧血などに葉酸のみを処方すると、消費性にビタミンB12欠乏状態となる可能性があることに注意しましょう。
・葉酸
肝臓で貯蔵されているが、ビタミンB12とは異なり数か月程度しか貯蔵で賄えません。
空腸で吸収されます。
精神科の奥深さ ★神田橋條治 精神科講義
★神田橋條治先生 林道彦 かしままりこ 編
以前に紹介した神田橋先生の医学部講義と同じ系統の本です。
精神科講義は後半からオカルト的要素もでてきますが、それでも非常に多くを学べる本です。
精神科自体、科学ですべてを解明できていません。ちょっとオカルトがあるからといって食わず嫌いするのは良くないでしょう。
医学部講義は「いいお医者さんになってください」が一貫したテーマだったと私は考えています。
では、精神科講義のテーマは何でしょう。精神科医としての神田橋先生の軌跡でしょうか。この本は私達に精神科医として歩き出す、その初めの一歩の正しい方角を示してくれる本のように思います。
これは別で紹介している中井久夫先生をはじめとした先生方の名著と同様で、私達若手精神科医にとってのコンパスのような役割を果たしていると思われます。
精神科臨床は、少しの堕落で容易に道を踏み外してしまいます。しかし外来という閉鎖空間では、誰もそのことを指摘はしてくれません。名著を繰り返し読み修正していくことが必要になるのではないかと考えています。
さて、せっかくなので「精神科講義」の話題を一つ扱いましょう。
「問題点の指摘の仕方」という項目があります。
ここでは、「問題点とはどういうことか」、「そのとらえ方」、「指摘の仕方」について説明されています。
「問題」という言葉に含まれた二つの意味、それを口に出したくなったときに沸いている感情、相手にどのように伝えると良いか、がわかりやすく説明されています。
精神科医として相手に考えを伝えるときにどうすれば良いのかという非常に奥深いテーマ、一度は目を通しておくとよいのではないかと思います。
精神科 豆知識シリーズ ⑩併用禁忌 スボレキサントとレンボレキサントの違い
オレキシン/ヒポクレチンは覚醒を維持するのに必要な物質です。
中枢性過眠症に分類されるナルコレプシーは、オレキシンが欠乏することが特徴的な疾患です。
オレキシン受容体を遮断することで睡眠薬として開発された薬剤があります。
スボレキサント:ベルソムラ®
レンボレキサント:デエビゴTM→以下デエビゴ
ベルソムラ®は発売されて数年たちますが、デエビゴは2020年1月23日に承認されたばかりの薬です。
当然、細かい薬理作用に差はありますが、私が思う大きな違いについて記載したいと思います。
それは、併用禁忌に関する項目です。
ベルソムラ®には併用禁忌の薬剤が多数ありました。
それはCYP3A4を強く阻害する薬剤で、ベルソムラ®の血中濃度が上昇してしまうために禁忌となっています。
クラリスロマイシンや、イトラコナゾール、ボリコナゾールなどなどです。
クラリスロマイシンは耳鼻科で気軽に処方されるため注意が必要です。私も外来患者でベルソムラ®を処方していた症例に、耳鼻科から副鼻腔炎に対しクラリスロマイシンを追加処方されて焦った記憶があります。
また、リエゾン患者でベルソムラ®を処方した場合、身体的な状況によっては抗真菌薬が追加投与される可能性があります。
特に、大学病院で免疫抑制剤を内服している症例では、そのような薬剤調整は頻繁に起こりえます。そのため、ベルソムラ®を使いたくても使えないというシチュエーションが結構あります。
一方、デエビゴは減量さえすれば、CYP3A4を強く阻害する薬剤と併用することが可能です。この点がベルソムラ®とデエビゴを使い分ける上で非常に大きなファクターとなると感じています。
あと、これは考えすぎかもしれませんが、ピロリ菌の除菌です。
ピロリ菌の除菌の薬物治療は基本的に、(PPI or P-cab)+アモキシシリン+クラリスロマイシンが用いられます。
外来で継続的にベルソムラ®を処方している人がピロリ菌除菌を行い、薬局で併用薬の確認が漏れてしまった場合・・・。気付かぬうちに併用禁忌を犯してしまう可能性があるということです。これで、何らかの事故が起きたとしたら・・・。
まあ、禁忌ではありませんがデエビゴも減量はしないといけないので、ベルソムラ®のみを過剰に怖がる必要はないのかもしれませんが。
精神科 豆知識シリーズ ⑨エスシタロプラムとCYP2C19
エスシタロプラム:レクサプロ®はQTc延長で禁忌とされていますが、その点以外は使用しやすい薬剤です。
私も頻繁に使用しており、この薬剤が使えなければ・・・。セルトラリン:ジェイゾロフト®、デュロキセチン:サインバルタ®、ベンラファキシン:イフェクサー®、ミルタザピン:レメロン®・リフレックス®など他にも選択肢はあるのでそこまで困らないか。
と、冗談は置いておきましょう。
レクサプロ®は10mgの初期投与量が治療用量であることから使用しやすいとよく言われますが、実はここに落とし穴があります。
レクサプロがCYP2C19によって代謝されることは皆さんご存じでしょう。
では、日本人にCYP2C19のpoor metabolizerがどれくらいいるかを気にしたことはありますか?
ある文献を参考にすると、日本人のCYP2C19のpoor metabolizerは15~20%程度いるのではないかと考えられています。
これらの人ではレクサプロ®のクリアランスが50%以下に低下し、血中濃度が想定以上に上昇してしまうことが知られています。そして、QTc延長の副作用もでやすいのではないか、とも。
あくまで私の臨床実感ですが、poor metabolizerかどうかは別として、レクサプロ®って結構5mgでも十分な効果を発揮する症例って多いように思います。
特に、不安を対象とした処方であれば5mgで十分に改善する症例を何例も経験しています。
抗うつ薬を投与する場合、私は副作用で内服中断してしまうことを避けたいと考えています。そのため、レクサプロ®を処方する場合はほぼ全例5mgから投与開始としています。そして、治療効果、有害事象、精神症状を総合的に評価し、10mgに増量する必要があるかを検討します。
精神科薬物治療は急ぐ必要があるケースと急がなくても良いケースがあると私は思います。急がなくて良いケースでは患者のコンプライアンスを高める努力として、より慎重な薬剤投与が望ましいと思います。
初期研修医向け 基礎的参考書 救急外来のオススメ本
救急外来は初期研修医は「ほぼ」避けては通れない鬼門です。
軽傷かに見える重症患者、軽傷なのに訴えが強くて帰ろうとしない患者、精神科領域の患者、色々な基礎疾患がある患者など、様々なシチュエーションでの患者対応が必要になります。
初期研修医にとって救急外来の勉強は必須であり、同時に精神科医も病棟管理の上で救急外来の知識は必須となります。
入院患者では時間を利用した診療が可能なので、救急外来よりも余裕ある診療が可能です。
①マニュアル
マニュアルで提示した当直医御法度の症例集バージョンです。内容は当直御法度と類似している点もありますが、症例ベースでの勉強が可能です。
この本を何度か読み込んでおけば、救急外来で主訴から鑑別をスムーズに挙げて対応が可能になるでしょう。嘘のような本当の話ですが、この症例集のままの経過の患者が来ることが良くあります。必読!
③読み物系
「帰してはいけない」シリーズの救急外来です。一見、軽傷に見えても帰宅させると危険な患者は数多く来院します。地雷症例を地雷にせずに安全に対処できるように、こういったピットフォールをまとめた本は何冊か目を通しておくと良いでしょう。
失敗から学ぶことも可能ですが、できれば失敗せずに学びたいですよね。
精神科 豆知識シリーズ その目的
精神科豆知識シリーズの目的です。
大層な目的ではなく、精神科診療で見落としがちなTipsや、後輩への雑談ネタになりそうな話題を扱っています。目標は999!というのは無理だと思うので、ぼちぼち思いつく限り書き続けたいと思っています。
精神科 豆知識シリーズ ⑧セロトニンと血小板の凝集の関係
抗うつ薬の添付文書を見ていると、易出血性の副作用があると記載されています。
この理由を皆さんご存じでしょうか?
これは抗うつ薬の薬理作用である、セロトニン再取り込み阻害作用が原因と考えられています。
では、セロトニン再取り込み阻害作用と易出血性にはどのような関係があるのでしょう。
精神科とは全く関係ない分野ですが、血小板について目を向けるとこの理由がわかります。
血小板が止血機能を果たすとき、血小板は凝集する必要があります。
この血小板が凝集する際に、セロトニンの取り込みが行われるようです。
SSRIによるセロトニン再取り込み阻害作用が血小板に作用することで、血小板がセロトニンを取り込めず、血小板の凝集が阻害されてしまうという機序が考えられています。
最近発売された新規の抗うつ薬、SRIMと呼ばれているボルチオキセチン:トリンテリックス®の薬剤情報は皆さんも聞かれたことでしょう。
臨床試験中に頭蓋内出血が起きたことから、有害事象として報告されています。
薬理学的に全く関係のない有害事象であれば、「薬剤を飲んでいる人に偶然起きた」という説明で片付けられます。
しかし、不幸にもセロトニンを強く阻害する薬剤であるトリンテリックス®において頭蓋内出血が起きているため、非常に印象が悪くなっています。
ただ、逆に言えばセロトニン阻害→易出血性を記憶する機会にもなります。私の場合はDIの度に後輩にセロトニンと易出血性の関係について指導しています。