若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

精神科 豆知識シリーズ ⑥意外と盲点?オランザピン筋注と糖尿病

精神科臨床において、オランザピン:ジプレキサ®は使いたいけど使いにくい薬剤ではないでしょうか?

鎮静もかかり、抗精神病作用もあり、急性期では非常に有用な薬です。

しかし、抗コリン作用が強い、糖尿病に禁忌、体重が著しく増加するといった使いにくい点があります。

体重増加は40%で5kg、14%で10kg増加すると報告されており、長期投与を行う上でのコンプライアンス不良の原因となります。

この数字はこの本で勉強しました。

psy-book.hatenablog.com

 

さて、糖尿病に関してはどうだろうか。

オランザピン:ジプレキサ®、クロザピン:クロザリル®は耐糖能異常を起こしやすい薬剤として有名です。

抗精神病薬では、ジプレキサ®とクエチアピン:セロクエル®が糖尿病に禁忌となっています。クロザリル®は禁忌ではありませんが、注意が必要です。

 

さて、オランザピンの筋注に関してはどうでしょうか?

統合失調症の精神運動興奮に用いられます。

ジプレキサ筋注用の添付文書を見てみると、あら不思議、糖尿病に禁忌の文字はありませんね。

これはどうしてでしょうか。

そもそも、このジプレキサ筋注用は長期に渡り使用する薬剤ではないからです。精神科救急に搬送されてきた患者で、夜間に採血ができない場合にも薬剤は使用する必要があります。

そのときに、糖尿病の有無が確認できなかったとしても、ジプレキサ筋注を2日程度使用したことが原因でDKA、HHSなどは誘発する可能性は限りなく低いと考えられているのでしょう。

当然、禁忌じゃないからといってジプレキサ筋注を連日投与していれば高血糖を誘発するでしょう。あくまで、ジプレキサ筋注は緊急時に使用する薬剤であり、かつ連日投与を目的とした薬剤ではない、という条件から糖尿病禁忌が外されたと予想されます。

ちなみに10mg筋注で薬価は2067円です。何も考えずに連日投与を行うことは医療経済上も良くありません。保険診療に携わる医療者としては、使用するにあたって他の選択肢がないかを十分に検討する必要があるでしょう。

私が以前勤務していた急性期病院で、ある医師が約束処方にジプレキサ筋注10mgを設定したために、20日くらいジプレキサ筋注が連続使用となっていた症例を見たことがあります。

最低ですね。