若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

精神科というか臨床家の基本姿勢じゃないかな ★神田橋條治 医学部講義

 ★神田橋條治先生 黒木俊秀・かしまえりこ編

神田橋條治 医学部講義

医学部講義とあるだけあって、精神科医以外の科を志す医者に向けた言葉も多い本です。

神田橋先生の講演などを直接聞いた経験は無いため、著書等で先生の考え方などを学ばせてもらっています。

この本は医療者にとって、非常に基礎的で重要な考え方を含んだ本になっています。

精神科医になるかどうかは別として、神田橋先生が医学生に対し「いいお医者さんになってください」という気持ちを込めた講義をされているのを感じます。

私も大学生向けの講義などをするような立場になり、「彼らに何か一つでも伝えられたらいいな」と思いながら講演を行っています。医学生看護学生への講義がメインとなり、その中で精神科を進路に選ぶ方は本当に一握りです。むしろ他分野を専門とする人が多い中、精神科医として「何を彼らに伝えられるか」に頭を悩ませていたりします。

脱線しましたね。

この本は分厚いですが、何度か読み込む価値が本当にあります。私は第一講の「診断者の感性」で強く引き込まれました。

境界例」とされる人たちの不安定、厄介さの原因は、自分とピタッと通じ合える相手を求めているからだと思うからです。(中略)人との絆の確かさをというものを得たい、欲しいという、絆がないことを乗り越えていこうとする、本人の治療的な意欲によって、厄介な状態になるわけです。

 「境界例」についての神田橋先生の捉え方が描写されています。そして、ここから紡ぎだされる接し方に心を打たれました。

ボクがしているのは、「この治療意欲はもうやめんね」と言うこと。「やめんね」と言うと、まるで吐き気を止めているように聞こえるかもしれないけど、そうじゃなくて、「悲しいだろうけれど、つらいだろうけれど、そりゃなかなかいないよ」と、「だけどいつかそういう人に運よく出会うこともあるかもしれん」(中略)というような形で少し絆の方向を転換する。

 患者の努力を認めながらも、それじゃ苦しいよなとしんどさを受け止める。その上で、患者が上手くできなかった「自然治癒」を別の方向に、そっと転換するきっかけを与える。そういった医者と患者の関係性、きっとこれが精神療法なんだろうなと感銘を受けました。こんな暖かい面接ができるようになりたい、と日々診療にあたっています。

「医学部講義」に脈々と流れている医療者としての態度、これは若い内に是非目を通して欲しいと私は考えています。