若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

精神ってファジーなもの。割り切った理解は難しい。 ★看護のための精神医学

 ★中井久夫先生

・看護のための精神医学
「看護のための」と銘打ってはいますが、別に看護師向けの本という訳ではありません。
この本の根底には、医者が治療として関わることに限界があったとしても「看護できない患者はいない」という、精神科診療の信念のようなものがあると感じます。
私達医者はどうしても、患者が良くなるかどうか、良くできるかどうかに目が行きがちです。
この視点も当然重要でしょう。医者の努力や薬剤調整で副作用が少ない必要十分な医療を提供することは、患者にとって非常に大きなメリットがあるからです。
しかし一方で、医者の医療的側面の努力によって症状がそれほど改善しない患者も多く経験します。このとき、私達医師は赤旗を挙げて降伏するしかないのでしょうか?仮に症状が改善しなくても、患者の人生は続きます。当たり前のことですね。
そのような「患者の人生に寄り添う付き合い方」が精神科診療にとって重要だということが、この「看護できない患者はいない」という言葉に表れていると私は感じました。
改善しない患者を前に無力感に苛まれ、匙を投げたくなる感覚に陥ることは少なくないでしょう。
熱心に患者に向き合っている医師であればあるほど自然に湧き出てくる感情だと私は思います。
実際に、私もこのような感情が生じたことはありますし、常に適切な対応が取れている訳でもありません。反省の多い診療です。
そういったときに、この言葉を思い出して診療に戻る勇気をもらっています。
 
本の内容は精神疾患、精神症状が、中井久夫先生の経験、観察を元に描写されています。DSMのようなかっちりした精神疾患の表現ではなく、どちらかというとファジーです。実臨床もファジーなものなので、この本のイメージを頭に入れておくと患者対応がやりやすくなるのではないかと思います。
非常にわかりやすい本なので、初学者にお勧めです。