若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

せん妄でよく使う向精神薬

せん妄診療で私が使う薬剤についてです。あまり使わない薬剤、使ったことがない薬剤についても記載しておきます。

 

睡眠薬

・ラメルテオン:ロゼレム®

副作用が非常に少ないので、転倒ハイリスクなどで使用。CYP1A2を強く阻害するフルボキサミンが併用禁忌。その他、CYP1A2、CYP2C19、CYP3A4を阻害する薬剤でも半減期延長。

 

・スボレキサント:ベルソムラ®

眠れてなくて混乱してそうなせん妄に。

15mgを主に使用。減量基準にかかれば10mgを。

クラリスロマイシンなどCYP3A4を強く阻害する薬剤で併用禁忌。

エリスロマイシンなどCYP3A4を阻害する薬剤との併用で10mgに減量。

ジルチアゼム:ヘルベッサー®、ベラパミル:ワソラン®もCYP3A4を阻害することに注意が必要。Afなどの頻脈性不整脈で追加投与されたとき、ベルソムラの半減期が伸びてしまう。

 

★鎮静系抗うつ薬

トラゾドンデジレル®、レスリン®

ちょっと混乱している程度のせん妄に。睡眠を助けてせん妄の改善につながるイメージ。

併用禁忌は抗HIV薬のサキナビルメシル酸塩。

CYP3A4阻害作用のある薬剤は血中濃度を上昇させるため併用注意。

夕食後~眠前に12.5mgから50mg程度を体重、年齢、腎機能に応じて処方。

最高で100mg程度まで利用、それ以上の増量は副作用>治療効果となる印象。

激しい過活動型せん妄、双極性障害の患者などには効果見込めない、もしくはデメリットが大きい可能性あり。

 

・ミアンセリンテトラミド®

トラゾドンと似た使い方。テトラミド®の方が半減期は長い。MAOIと併用禁忌。

10mgが市場から消え去り、30mgの半分量から投与するか?

CYP1A2、2D6、3A4によって代謝される。

トラゾドンはワルファリンと併用でプロトロンビン時間の短縮が報告されているので、気になる場合にはこちらの使用を・・・。

 

・ミルタザピン:リフレックス®、レメロン®

MAOIは併用禁忌。

せん妄というか、低活動な状態で低活動型せん妄も一応疑われる際に稀に・・・。

CYP1A2、2D6、3A4によって代謝

使用は7.5mgから副作用の出現がないかを確認しながら使用。著効するケースもあるので選択肢にはありますが、滅多に使いません。

 

 

抗精神病薬

・リスペリドン:リスパダール®

腎排泄、腎機能障害があると血中濃度が低下しにくいため要注意。

主にCYP2D6、CYP3A4にも代謝

年齢、体重、腎機能にもよるが、夕食後に0.5mg、1mgから使用。

夕食後投与で早めに対応し、不穏時に0.5mg・1時間あけて2回まで追加可能としておく。

 

・クエチアピン:セロクエル®

糖尿病禁忌。CYP3A4で代謝される。

半減期も3~4時間程度で持ち越しも起きにくく使用しやすい。

が、代謝が落ちているからか高齢者では結構持ち越すことはあるので少なめに使用を。

年齢、体重、腎機能にもよるが、夕食後に12.5mg~50mgから使用。

夕食後投与で早めに対応し、不穏時に12.5~25mg・1時間あけて2回まで追加可能としておく。

レビー小体型認知症、薬剤過敏性が疑われる場合は12.5mgの半量の6mg程度からの処方とすることが多い。

 

・オランザピン:ジプレキサ®

増悪した経験もあるので使いません。半減期長め、抗コリン作用強め。

 

・アセナピン:シクレスト®

CYP1A2により代謝。CYP2D6を軽く阻害する。舌下投与で初回通過効果受けない。肝機能障害がある場合は使用する際に注意。

CYP1A2を阻害するフルボキサミンとの併用は血中濃度が上がる可能性があり注意が必要。パロキセチン血中濃度をあげうる点に注意。

糖尿病でも使用可能。抗コリン作用が皆無。腎機能障害があってもOK。半減期は長いが低用量ならあまり持ち越さない印象。鎮静作用自体も弱め?

夕食~眠前に2.5mg~5.0mgの投与。追加も2.5mg。そこまで使用経験は多くない。

 

・ブロナンセリン:ロナセン®

CYP3A4で代謝される。空腹時に内服すると血中濃度が上昇しにくい。

腎機能障害あり、糖尿病ありという症例でたまに使う。

 

・ペロスピロン:ルーラン®

CYP3A4で代謝される。空腹時に内服すると血中濃度が上昇しにくい。

一時期積極的に使っていたが、あまり効果は期待できなかった。これしか選択肢がないときに・・・。

 

・アリピプラゾール:エビリファイ®

使ったことありません。低活動型せん妄に使う人がいると聞く。

 

・その他

・抑肝散

眠前、夕食後に投与。甘草、グリチルリチンによる偽性アルドステロン症に注意。低K血症は時々起きる。

認知症のBPSDに抑肝散が継続処方されていて、カリウム2台となっていることもあり結構怖い。

 

・点滴

ハロペリドールセレネース®の投与

CYP2D6、3A4に阻害される。併用薬に注意は必要。

過量投与でQTc延長のリスクについても考えておく必要あり。

体重、年齢などを見て用量調整。

せん妄が起きる時間より前のタイミングで、ハロペリドール2.5mg+生食100mg投与。興奮強ければ適宜追加投与も検討。

統合失調症患者に使用する場合は、錐体外路障害を予防する目的で抗コリン薬を追加する。しかし、抗コリン薬がせん妄のリスクとなるため、せん妄に使用する場合は併用しない。

 

・オプションの治療法

不眠+せん妄の時、抗精神病薬を処方した上で睡眠薬を追加処方する場合もある。

エスゾピクロン:ルネスタ®を追加するなど。苦みの副作用出現には注意。

 

・内服でどうしようもない場合や、内服で副作用が出すぎる場合

経静脈的な薬剤投与

ICUなどデクスメデトミジン:プレセデックス®の持続投与

ミダゾラムドルミカム®の持続投与

フルニトラゼパムサイレース®+ハロペリドールセレネース®

このあたりは精神科医よりも集中治療医、内科医の方が使い慣れている薬剤。

③に関しては使用上の注意点があるため、安全に使うための工夫が必要。