若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

避けては通れない、外傷的育ちへの関わり方 ★メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

★崔炯仁先生

・メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

「外傷的育ち」という言葉は著者の造語のようです。

「外傷的育ち」という概念は、「複雑性PTSD」、「境界性人格障害」、「アダルトチルドレン」と臨床上、薬物治療よりも心理療法が治療の中心となる症例を含んでいます。

我々、治療者、援助者が彼、彼女らをどのように理解し、関われば良いかを学ばせてくれる名著です。

私自身は実臨床の中で、知的に低めという訳でもないのに、「(なんちゃって)認知行動療法を導入しようにも、認知再構成法により自動思考に気づき・対処することができない」症例に時折遭遇することがありました。

このような症例の存在には気付きつつも手探りで外来診療を行ってはいましたが、この本を読むことで今までの臨床経験の疑問点や苦労していた理由について整理されました。

本来、成長過程でミラーリングなどを通して育まれるメンタライズ力、つまり自分自身を見渡す能力の機能不全が、患者の生きづらさに結びついている、という考え方が腑に落ちました。

メンタライゼーションという概念は精神科臨床を行う上で、必ず役に立つものだと思います。過量服薬や自傷行為を繰り返す症例から、なんとなく社会で適応できずに悩んでいる症例まで、メンタライズの能力を育むことで幾分か症状が改善し展望が見えてくる症例が多いと感じます。気の長い作業にはなりますが、一精神科医として引き出しを増やすことの重要性について気付かせてくれた名著です。

自分の診療に限界を感じ、「この患者は良くならない」とレッテルを張ることで何とかやり過ごしていることは誰しもあるのではないでしょうか。

それは、全力で診療に取り組みながらも、どうしても解決できない症例に繰り返し遭遇することで生じるものだと思います。

この「メンタライズ」という概念を知り、臨床に活かすことで、この限界の殻を打ち破れるのではないでしょうか。

 

・こんな人にオススメ

全ての精神科診療に携わる人

初学者から中堅、ベテランまで、今まで気づいてこなかった患者への関わり方に気付けるかもしれません

 

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