若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

感覚を言語化し、形にする。その偉大さ。 ★追補 精神科診断面接のコツ

神田橋條治先生

・追補 精神科診断面接のコツ

 

神田橋先生のコツシリーズ、三部作の内の一つです。

これは驚くべき名著です。他の記事でも名著、名著と言いまくっていますが、それはこのブログが名著を選別したものだから仕方ありません。セレクションバイアスってやつですね。

この本の凄さは、精神科の診断や面接の技法について、完全に言語化して表現されている点です。

私達精神科医は、例えば認知行動療法と言った「名前付き」の精神療法以外の診療技法は手探りで、個々人に委ねられていることが多いと思います。自分なり、もしくは、先輩の見様見真似でなんとなく、それが良いか悪いかもはっきりはわからないけれど、日々の診療をこなしている側面があるでしょう。

この「精神科診断面接のコツ」は、言語化が非常に難しい精神科診療を言葉のメスで切り込み、私のような未熟者にも職人芸のメカニズムを教えてくれる本になっています。

具体的には中身を見てもらう以外に方法はありませんが、面接の場の設定、患者の話の聴き方、問い方、質問方法といった細かい内容にも言及されています。

また、「この本には軽い意識障害の診かた」についても教えてくれます。これは、原田憲一先生の「軽い意識障害の診かた」が絶版となった今、非常に貴重な資料になると思います。

 

一度読んだだけで理解し、使いこなすのは不可能でしょう。節目節目に読み返し、答えのない精神科診療の質を少しでも向上させる努力をしたいものですね。