若手精神科医の覚書

若手から中堅の精神科医が、精神科初学者の学習に向いた本の紹介をしています。

うつ病とは何かは難しい。精神科医が常に留意したいこと ★生活習慣病としてのうつ病

★井原裕

生活習慣病としてのうつ病

産業医として活躍されている独協医科大学の教授である井原先生の著書です。

この本は精神科医として患者と向き合うことの重要性を感じさせてくれます。

というのも、精神療法や薬物療法を行うにあたって、それらの効果を最大限発揮させるための心理教育に重きを置いているからです。

心理教育といっても色々とありますが、この本の主題の通り「生活習慣病として」の対応です。

睡眠や飲酒の習慣といった精神科療養で必要となる、「基本的」しかし「本質的」な生活指導を行うことの重要性を説いてくれる内容となっています。

どうしても若手の間は、細かい薬物治療や何らかの精神療法を上手く使って治療したいという気持ちが先行してしまい、基本となる生活習慣の改善への介入を忘れがちです。

この本は若手精神科医にもわかりやすく、非侵襲的で副作用が少なく、効果の大きな生活習慣への介入方法を教えてくれます。

また、「生活習慣病としての~」とは少し違う点ですが、全症例検討会の項で提示されているショートプレゼンテーションも非常に有用に感じました。コンパクトに患者情報をまとめ、それを相手に伝えるという症例の把握能力を鍛えることができます。この能力は得手不得手もあり、また一長一短で身につくものではありません。しかし、練習をすれば一定レベルまで向上させることは可能なので、若手の内からトレーニングを積むべきものではないかと思います。

 

生活習慣病としてのうつ病」は私達精神科医に非常に重要な気付きを与える本になっています。ただ、ちょっと極端なところもあるので、いつもの通り勉強は一つの本からだけでなく、色々な側面から学ぶ必要があるというのは付け加えておきます。